2019年1月3日は、仮想通貨ビットコイン(BTC)が世の中に生み出されてから10周年の記念日です。最近では投資対象として値動きばかりに注目が集まりがちな仮想通貨ですが、もともとその成り立ちの根底には、国家や大企業に縛られない新しい経済の仕組みを作ろうという思想がありました。この機会に、仮想通貨の原点となった暗号化技術とサイファーパンク運動について振り返ってみましょう。

ジェネシス・ブロックの誕生

仮想通貨ビットコインのネットワーク上の最初のブロック(ジェネシス・ブロック)が、その考案者とされる「サトシ・ナカモト」と名乗る人物によって採掘されたのは、2009年1月3日のことでした。それから10周年の節目を迎えるわけですが、ビットコインには中央管理者が存在しないため、公式の祝賀行事が予定されているわけではありません。

「ナカモト」がネット上に「ビットコイン ピア・トゥー・ピアの電子マネーシステム」と題する論文を発表し、ビットコインの仕組みについて説明したのは、2008年10月31日のこと。それからわずか2カ月あまりで、現実にビットコインが誕生したことになります。

仮想通貨の基盤技術には40年の歴史

ビットコインは、「サトシ・ナカモト」が何もないところから独自に考え出したわけではありません。その基礎となった技術や発想には約40年に及ぶ歴史があります。暗号化技術は1970年代に米軍によって開発されたものであり、不正取引を防ぐための「プルーフ・オブ・ワーク(PoW)」をはじめとする技術の多くは、1990年代に暗号化技術を使って社会をより良く変えるため集結した「サイファーパンク」運動の人々によって編み出されたものです。

仮想通貨に採用されている暗号化技術はもともと、米ソ冷戦期の1970年代に米軍によって軍事目的で開発され、その後、民間企業に公開されました。この点はインターネットの起源とも似ています。インターネットも冷戦時代に米軍機関がソ連の核攻撃に備えて情報拠点を分散化するため開発した「アーパネット」が元になっていますが、その後この技術が民間に開放され、社会を大きく変える原動力となりました。

暗号化で巨大組織から個人を守る

1992年末、米軍が開発した暗号化技術を使ってデジタル社会の脅威から個人を守ろうと、米サンフランシスコに集結した技術者グループがありました。彼らは「サイバーパンク(cyberpunk)」と暗号文を意味する「cipher」という2つの言葉を掛け合わせて「サイファーパンク(cypherpunk)」と呼ばれるようになり、メーリングリストを通じて活動の輪を広げていきました。

サイファーパンク運動の創始者の一人であるエリック・ヒューズ氏は1993年3月9日、「サイファーパンク宣言」を発表しています。この中で同氏は、デジタル社会では個人が常にプライバシーを侵害される危険に直面していると指摘。こうした危険から個人を守るため、暗号化技術を使って、個人が望むときにのみ個人情報を明かせるような匿名の取引システムを作ることが必要だと訴えています。

ヒューズ氏は「政府や企業などの顔のない巨大組織が慈悲深く私たちにプライバシーを与えてくれることを期待してはならない。私たちの個人情報は彼らを利するものであり、彼らがそれを誰かに明かしてしまうことを覚悟しなくてはならない」「プライバシーが欲しければ自分たちの手で守らなくてはならない。力を合わせて匿名取引を実現するためのシステムを作らなくてはならない」と強調しています。

その上で、「私たちサイファーパンクは、匿名システムの建設に献身する。暗号学など匿名のメール送信システムやデジタル署名、電子マネーを使ってプライバシーを守る」と宣言。サイファーパンクが個人のプライバシーを守るためのプログラムを開発して世界中の誰にでも無料で提供することを約束し、「人々は力を合わせて共通の利益のため、こうしたシステムを展開しなくてはならない」と呼びかけています。

「ビットコインは無政府資本主義への第一段階」

サイファーパンクの一人であるジェームソン・ロップ(Jameson Lopp)氏は2018年末、ポッドキャストでのインタビューに対し、「ビットコインの実験が成功すれば、通貨の革命だけでなく、統治についての考え方の革命ももたらし得る」と発言。もし政府などの中央集権化された組織により現在供給されているサービスが、政府機能を代替できるものによって供給されるようになれば、「より自己統治的で、無政府資本主義的(anarcho-capitalist)な社会」がもたらされる可能性があると指摘した上、「その第一段階がビットコインだ」との考えを表明しています。

このように、ビットコインが生まれた背景には、国家や大組織の支配から個人の自由を守ろうという思想がありました。しかし現在では日本を含め、仮想通貨産業は国家の統制下で産業として定着しつつあります。初めは反体制として生まれたものが、やがて体制の中に取り込まれていく過程は、私たちが歴史の中でたびたび目にしてきたことです。

2018年12月に死去したサイファーパンクの創始者の一人ティモシー・メイ(Timothy May)氏は生前、「規制に親和的となっては仮想通貨の主要な効用が失われかねない。仮想通貨は単なるペイパルやVISAカードの別形態ではない」と強調し、国家の統制の下に置かれていく最近の仮想通貨業界の動きに懸念を表明していました。

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