スイスでは、大手銀行2行が相次いで仮想通貨企業との取引を終了したのをきっかけに、同国金融当局が仮想通貨関連産業の国外流出を食い止めるための対策に本腰を入れ始めました。仮想通貨産業が集まるスイスの「クリプトバレー」でも、銀行業界の積極的でない対応が事業の障壁となっています。

仮想通貨テソスのスキャンダルがきっかけか

スイスは「クリプトバレー」と呼ばれるツーク州を中心に仮想通貨産業が集まっていることで知られますが、伝統ある銀行業界が仮想通貨やICO関連の顧客になかなか門戸を開かない点が事業の障害になっています

スイス国内に250行ある銀行のうち、仮想通貨関連企業に口座開設を認めているのは、ほんの数行だけ。しかも、その数行のうち、同国の仮想通貨産業の発展に大きく貢献してきた大手の2行が、2017年10月、相次いで仮想通貨関連の口座を閉鎖する措置に踏み切りました。

この結果、ロイター通信の集計によると、現在も同国で仮想通貨関連企業の口座開設を認めていることが確認できたのは、わずか2行のみとなっています。

チューリヒ州立銀行が仮想通貨から撤退

仮想通貨関連の取引から撤退した2行のひとつは、スイスで4番目に大きいチューリヒ州立銀行(ZKB)です。同行は世界の大銀行の中で、ICO(仮想通貨による事業資金調達)を行う事業者を受け入れていた数少ない銀行の一つでしたが、2017年10月、20社を超える仮想通貨関連企業の口座を閉鎖しました。ZKBは、今後はいかなる仮想通貨関連の企業や団体ともビジネスを行わないと宣言しています。

ほぼ同時期に、別の大手銀行も仮想通貨プロジェクトの受け入れを拒絶したことが、このプロジェクトに近い筋の話として伝えられています。同筋は具体的な銀行名は明かしていません。

スイス銀行業界の警戒を強めたテソス問題

これら2行が仮想通貨業界への門戸を閉ざしたのは、同国で発生した仮想通貨テソス(Tezos)をめぐるスキャンダルがきっかけとみられています。ツーク州に本拠を置くテソスの財団は2017年7月に2億3200万ドルの大規模なICOを実施したのですが、その後、開発者夫妻と財団社長の間で内紛が起こって仮想通貨の配布が遅れ、投資家から集団訴訟を起こされる事態となりました。このスキャンダルを通じてICOに対するスイスの銀行業界の警戒感が一気に強まったのです。

成長が見込まれる仮想通貨事業の国外流出を懸念

スイスの仮想通貨関連産業は、今後も成長が見込まれる上、仮想通貨の根幹技術であるブロックチェーンは同国の基幹産業である金融業界にとっても重要な革新的技術になると考えられています

そのため同国の金融当局は、こうした銀行の拒否反応がきっかけで仮想通貨産業がリヒテンシュタインやジブラルタル、ケイマン諸島などの国外に流出することを怖れています

「クリプトバレー」の仮想通貨産業は守られるか?

スイスのツーク州には200〜300社の仮想通貨関連企業が集まっており、コンピューター産業が集積している米国のシリコンバレーになぞらえて「クリプトバレー」と呼ばれています。

同州のハインツ・テンラー財務長官は、これらの仮想通貨産業が機能するには銀行との取引関係は必須であり、銀行と取引できるようにスイス連邦政府が対策を講じなければ、仮想通貨産業は国外に去ってしまうかもしれないと指摘しています。

同国の中央銀行であるスイス国立銀行(SNB)の幹部も、仮想通貨関連企業数社から銀行口座が開設できない問題で助力を求められたことを明かした上で、「この件はスイス金融市場監査局(FINMA)が対処すべき問題だ」としつつ、仮想通貨産業流出への懸念を表明しています。

この問題をめぐっては現在、FINMAとSNB、スイス銀行協会の三者で対策を協議しているところです。しかし、スイスではまだICOについての法整備がなされていない上、仮想通貨を使ったマネーロンダリングへの対策が不十分な点も、銀行業界にとっては懸念材料となってします。

リヒテンシュタインの銀行が受け入れ先に

スイスの銀行の慎重姿勢が、仮想通貨業界の多くのプロジェクトの停止や終了につながっている」と指摘するのは、スイス・スイートブリッジ財団の創設者デービッド・ヘンダーソン氏

同財団は2017年秋、スタートアップ企業スイートブリッジのICOのため、ZKBで口座開設の準備をしていましたが、手続きの最終段階にさしかかったところでテソスのICOをめぐるスキャンダルが発生し、口座開設はストップしてしまいました。結局、銀行口座はZKBではなく、ジブラルタルとリヒテンシュタインの銀行に開設されることになりました。

スイスの銀行から取引を断られた同国内の仮想通貨関連企業の間で人気を集めているのが、リヒテンシュタインのフリック銀行です。同行は約160の仮想通貨関連の企業またはプロジェクトと取引を行っており、そのうちICOを準備中のものが60に上ります。ただし、フリック銀行は仮想通貨企業からの口座開設申し込みのうち90%は断っており、スイスまたはリヒテンシュタインに本拠を置くICOのみを受け入れているとのことです。

2018年末までにガイドライン策定

スイスから他国へ仮想通貨産業が流出している状況は、統計にも表れています。クリプトバレー協会などが2018年6月にまとめた調査結果によると、スイスはICOによる資金調達額の国別ランキングで、2017年の2位から、2018年は6位に転落しています。

こうした中、スイスの金融当局は、銀行の不安を取り除いて仮想通貨企業の口座開設を引き受けさせるための新たなルール作りを行っているところです。2018年5月にはマーラー財務相の主催でFINMAやスイス銀行協会が出席して、この問題での円卓会議が開かれ、2018年末までに仮想通貨関連の顧客評価のガイドラインを策定する方針が決まりました

スイス政府は、同国が仮想通貨産業で競争力を維持でき、しかも詐欺や金融犯罪が入り込む余地のないような環境を整える方針で、ブロックチェーンとICOに関する、より広範な法的枠組みづくりも検討しています。

 

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