仮想通貨の中核技術であるブロックチェーンを証券取引に活用しようとする動きが世界各国で加速しています。中でも日本の証券業界はポストトレード業務への導入に向けた取り組みで先行しており、実用化すれば世界初の導入事例となりそうです。

日本の証券業界が共同プロジェクト

大和証券グループは2018年9月12日、他の証券会社と共同で進めている、証券取引業務へのブロックチェーン技術導入に向けたプロジェクトが、実用化に向けた「第2フェーズ」に入ったと発表しました。プロジェクトには大和証券のほか、野村證券やみずほ証券、ゴールドマン・サックス証券など25社が参加しています。

証券取引へのブロックチェーン技術の導入をめぐっては、東京証券取引所や大阪取引所を運営する日本取引所グループ(JPX)が「ブロックチェーン/分散型台帳(DLT)技術に関する業界連携型の技術検証」を進めています。大和証券をはじめとする証券業界のプロジェクトは、このJPXの技術検証の枠組みに連動するものです。

証券会社と機関投資家の間では、証券の売買成立後に数量や手数料などを双方で確認し合う「約定照合」というポストトレード業務が行われています。この約定照合には業界標準が存在しないことから各社ごとの対応となっており、業務が煩雑で時間とコストがかかることが課題となっていました。

そこで、大和証券を中心とする国内証券各社は2017年9月から、証券市場の効率化とコスト低減を目的に、ポストトレード業務の約定照合分野へのブロックチェーン技術導入に向けたプロジェクトを進めてきました。そこでの議論や実証実験を経て、ブロックチェーンが課題解決に有用との結論が導かれました。今後は世界初となるポストトレード業務におけるブロックチェーン技術導入の実用化に向け、2019年1月までに、ルール・規格の標準化やシステム要件、運営ルールなどについてとりまとめていく予定です。

米国では株式名義記録をブロックチェーン化

このように証券取引の効率化のためにブロックチェーン技術を導入する動きは、海外でも加速しています。

中でも最も積極的な取り組みを進めているのが、ベンチャー企業やIT企業が数多く上場していることで知られる米国の証券取引所、ナスダック(Nasdaq)です。ナスダックは2015年12月、ブロックチェーン技術を使った「ナスダック・リンク(Nasdaq Linq)」というシステムによる初めての非上場株の取引が行われたと発表しました。

「ナスダック・リンク」では、株式所有名義の書き換えをブロックチェーン上に記録することで、従来の煩雑な手続きがなくなり、これまで3日間かかっていた取引決済の所要時間を10分間へと大幅に短縮できるだけでなく、取引コストやシステム上のリスクも劇的に削減できるとされています。

このほか、米ニューヨーク証券取引所(NYSE)やオーストラリア証券取引所(ASX)、フランクフルト証券取引所を運営するドイツ取引所(Deutsche Bourse)、インド証券取引委員会などが、既にブロックチェーン技術を取引の一部に使い始めたり、将来のブロックチェーン活用に向けた調査委員会を発足させたりしています。

仲介業者が不要に

米資産管理会社ブロックフォース・キャピタル(Blockforce Capital)社のエリック・アービン最高経営責任者(CEO)は米フォーブズ誌への寄稿で、証券取引分野にブロックチェーン技術を導入する利点として、通常3日間以上かかっている取引決済が迅速化されることや、取引手数料などのコストも削減されて顧客の負担が軽減されることを挙げた上、煩雑な手続きが不要になり、場合によっては仲介業者の存在すら不要になる可能性もあるとしています。

ベルギーの国際決済機関ユーロクリア(Euroclear)と米大手コンサルティング会社オリバー・ワイマン(Oliver Wyman)が2016年2月に共同で発表したリポート「資本市場におけるブロックチェーン(Blockchain in Capital Markets)」でも、ポストトレード業務のコストと証券取引サービスの手数料は合わせて年間約1000億ドルにも上っており、ブロックチェーンの導入によってこれらの費用が節減できると指摘しています。

実現には安全面などの課題も

ただ、ユーロクリアなどのリポートは、証券取引へのブロックチェーン技術の導入に当たっては、ブロックチェーンのスケーラビリティー問題に加え、証券業界がこれまで維持してきたセキュリティー基準を確保できるかといった点が障害になるだろうとしています。

セキュリティー面については、日本の証券業界のプロジェクトでも、誰でもアクセスできるイーサリアムのようなパブリック(公開型)ブロックチェーンの採用には難色を示す声が出ており、非公開型チェーンの導入が検討されているようです。

こうした課題を抱えてはいるものの、アービン氏は「ブロックチェーン技術は世界の証券取引市場や金融データの蓄積・通信方法にも革命をもたらす潜在力を持っている」と指摘。1990年代から今日までのインターネットと同じような成長経路をたどり、証券業界だけでなく企業や政府に革新をもたらす次代の最重要技術になるとの見方を示しています。

友だち追加