日本郵船は、船上にいる船員たちへの給与支払いや船内での商品購入時の代金支払いなどのために、独自の電子通貨を使った決済・送金ネットワークの構築を検討し、実証実験を行ったことを明らかにしました。同社所属の船の上にある現金は現在800億円にも上っており、これらをキャッシュレス化することで船上の事務作業や紛失リスクを削減し、船員の利便性も向上させることが目的です。船会社による独自の電子通貨発行は世界でも初めての試みとなります。

船上にある800億円の現金を電子通貨に置き換え

現在、日本郵船が運航している船舶は約800隻に上っており、これらの船では、船員給与の一部の支払いや日用品の購買などに現金が使用されています。

そのため、それぞれの船の船長は出納業務をはじめ、商品の在庫管理や注文手配などの業務に一定程度の時間を費やす必要がありました。

一方で船員は、乗船期間中に現金を各自で保管し、本国への送金時には海外送金手数料を負担しなくてはならず、さまざまな国の港に寄港した際には、現地通貨に換金する必要もありました。

日本郵船は、世界中の同社所属の船上にある現金が総額800億円にも上ると推定しており、それに伴う間接コストや紛失リスクは非常に大きいと認識。こうした課題を解決するため、昨今発展の著しいフィンテックを活用した船上キャッシュレス化の検討を開始したとしています。

この電子通貨計画は、日本郵船グループの若手社員による、現場の気づきを生かした新しい発想やアイデア等の種を発掘し、具現化・事業化することを支援する「きらり技術力スタートアップ支援制度」の取り組みの一つとして検討が始まったものです。

なお、この独自の電子通貨は、フィンテックの技術を活用したものとされていますが、具体的にどのような技術を使ったものか、ブロックチェーンを使っているかどうかなどについては、まだ明らかにされていません。

船上でのキャッシュレス化とは

この船上でのキャッシュレス化計画は、船上での不安定な通信環境下でも、陸上からの給与支払いや、船上での購買、船員同士や陸上にいる家族への送金をすべて電子通貨で行うことを可能にし、さらに船長による決済業務の電子化により、現金の取り扱いで発生していたコストや時間、リスクを削減しようというものです。

具体的には、各船員への給与支払いはマンニング会社からオンラインによる電子通貨で行います。船上では各船員がそれぞれの端末を使って、船外からの商品購買についてはオンライン決済で行う一方、船内の売店での代金支払いは電子通貨によるオフライン決済で行います。船内の売店の端末は陸上の管理会社とオンラインで結ばれています。売店の売り上げの決済は、港に寄港した際に加盟店の端末を通じて行われます。

2018年8、9月に実証実験を実施

日本郵船では、こうした電子通貨の導入によるによる船上キャッシュレス化の実現に向け、2018年8月から9月末にかけ、株式会社日本カードネットワーク(本社・東京都新宿区、矢部真二社長)と共同で複数回の実証実験を実施。現金に交換可能な独自の電子通貨を整備・導入し、この電子通貨を船上で利用できる環境の構築と、電子通貨を簡易に管理できるアプリケーションの提供(特許出願済)について、実現可能性や有効性の検証を行いました。

日本カードネットワークは、株式会社ジェーシービーの子会社で、共同利用端末「JET-S(ジェッツ)」等を通してカード会社と加盟店間の与信データのオンライン接続や売り上げデータの伝送サービスなどを担う情報処理センター「CARDNET」を運営している企業です。

船上の通信環境の制限などが課題

日本郵船が進める電子通貨導入計画の実現に当たっては、船上での通信環境の制限など、まだ多くの課題が残っていますが、同社では事業化も見据え、実用化に向けたシステム構築、各種提携先との調整、運用面における改善点などの抽出を今後進めていくとしています。

そして同社は、将来的には、船員を多く輩出している経済圏にもこの電子通貨を展開することで、船員がメリットを享受できる機会を増やし、地域社会にも貢献することを目指すとしています。船員にはさまざまな国の出身者がいることから、そうした国への電子通貨の展開も視野に入れているとみられます。

この電子通貨は2019年第1四半期までには導入される見通しで、米ドルと連動したステーブルコインになるとみられています。

外航船舶の船員への賃金をオンラインで支払うシステムとしては、既にオーシャンペイ(OceanPay)やカーゴX(CargoX)のブロックチェーンを使ったプラットフォームが存在していますが、日本郵船の今回の計画は、船会社が独自の電子通貨を発行するという点で、世界で初めてのものです。

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