世界最大の仮想通貨取引所バイナンス(Binance)は2019年1月、トークンセールのプラットフォーム「ローンチパッド(Launchpad)」を通じ、今後毎月1件ずつ新プロジェクトのトークンセールを行っていく方針を発表しました。イニシャル・コイン・オファリング(ICO=仮想通貨を使った事業資金調達)の市場が冷え込んでいる中、バイナンスの積極姿勢が目を引きます。

逆風の中で積極攻勢

バイナンスは1月4日の公式ブログで、2019年内は「ローンチパッド」を通じたトークンセールを月に約1件の割合で行っていく計画を発表。手始めに、TRONを使ったP2Pファイル共有プロジェクト「BitTorrent」と、人工知能(AI)を使った分散型ネットワークのプロジェクト「Fetch Al」の2件のトークンセールを近日中に行うとしています。

スタートアップ企業の新たな資金調達手段として2017年まで急成長していたICOの市場は、2018年以降は低迷が続いています。オートノマス・ネクスト(Autonomous NEXT)のデータによると、ICOによる事業資金調達額は、2018年1月には過去最高の約30億ドルに上っていたのが、同年9月には3億ドルにまで低下。ギャラクシー・デジタル(Galaxy Digital)社を営むマイク・ノボグラッツ(Mike Novogratz)氏は最近、「ICO市場は死んだ」と宣言し、同社のICO顧問事業部門を閉鎖しています。

こうした中でバイナンスは「ローンチパッド」をリニューアルした上て、毎月1件のトークンセール実施を宣言しており、ICO市場の復活に向けた強い気構えを示しています。

「ローンチパッド」とは

「ローンチパッド」は、ICOを計画する企業やプロジェクトを支援するとともに、世界で1000万人のユーザーを持つバイナンスという巨大仮想通貨取引所を通じてトークンセールを実施する仕組みを持つプラットフォームです。2017年8月にオープンし、最初は「BREAD」と「GIFTO」の2件のICOプロジェクトのトークンセールを支援しました。2017年末のICOブームの中で、両プロジェクトともトークンセール開始から数秒のうちに売り切れとなり、BREADは600万ドル、GIFTOは340万ドルの資金を調達しています。

バイナンスは「ローンチパッド」を利用するプロジェクトに対し、トークンの割り当てやガバナンス構造などさまざまな面でアドバイスを行います。それだけでなく、バイナンス上でトークンセールを行うかどうかについては厳格な審査を実施します。審査内容には、プロジェクトが成熟段階に達しているかどうかや、大規模な資金調達に対する準備が整っているか、プロジェクトが仮想通貨のエコシステムに利益をもたらす可能性を秘めているかといった項目が含まれています。

「ローンチパッド」のトークンセールに参加したい投資家は、バイナンスのアカウント認証を受けたユーザーである必要があります。ただ、バイナンスのすべてのユーザーが参加できるわけではありません。米国や中国、北朝鮮など29カ国のユーザーはトークンセール参加はできないことになっています。日本のユーザーはこの除外リストには含まれていません。

販売されるトークンは、ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)、バイナンスコインその他の仮想通貨で購入することができます。

ICOの課題を取引所の参加で克服

バイナンスの「ローンチパッド」のように、仮想通貨取引所が事業者と投資家の間に入ってICOを取り仕切る形態は、「イニシャル・エクスチェンジ・オファリング(IEO)」と呼ばれています。ICOの取引の健全性や安全性を確保するために取引所が大きな役割を果たすのが特徴です。

従来のICOは、事業者が個人の投資家と直接やりとりする形が主流でした。このため、証券取引所を通じた新規株式公開(IPO)やベンチャーキャピタルを介した資金調達などと違って事前審査や仲介手数料もなく、ネットを使って世界中から簡単かつ迅速に投資を集められる事業資金調達方法として、ここ数年で急速に広まってきました。

しかし、ICOが活発になるにつれ、問題点も浮上してきました。

ひとつは、投資家にとってのリスクの高さです。

従来の株式投資やベンチャーキャピタルを通じた事業資金調達の場合には、証券取引所や仲介会社が投資先について調査し、一定のリスク選別をした上で投資家に投資商品を紹介していました。これに対し、ICOではこうしたチェックが働かないため、プロジェクトの失敗例や詐欺事例も多発しています。

このため、中国や韓国ではICOによる資金調達を全面禁止。米国では証券取引委員会(SEC)がICOで発行された仮想通貨を有価証券と見なして規制する方針を示すなど、各国で規制の動きが強まっています。

第二の問題点は、ICOがごく一部の富裕層の投資家を一般投資家より優遇する不平等な仕組みとなりつつある点です。

従来のICOでは事業者が投資家と直接やりとりできるため、最近では事業者側が投資家を選別する傾向が強まっており、一般投資家向けのクラウドセールを行う前に、一部の投資家のみを対象としたプライベートセールを行う例が増えています。こうしたプライベートセールでは、販売されるトークンの価格も一般投資家向けより安くなっている傾向にあります。

これに対し、仮想通貨取引所が取り仕切るIEOでは、実施前にプロジェクトの事前審査が行われるのでリスクは減る上、投資家は取引所に口座を持っていれば誰でも参加できます。こうした点で、IEOは従来のICOの問題点を克服する新たな仕組みとなっています。

事業者側にとっては、取引所に支払う手数料などのコストが発生する上、事前審査の手続きがあるため、今までのICOより資金調達に時間もかかるという難点もあります。それでも、ICOをめぐるトラブルが多発している中、投資家が安心して参加できるIEOは、今後のICOの主流となっていくかもしれません。

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