リーバイ・ストラウス社(Levi Strauss &Co.)やIBM、フォード・モーター社(Ford Motor Company)という米国を代表する世界的企業が、相次いでブロックチェーン技術を従業員の健康保護や児童労働の防止などに活用するシステムの構築に乗り出しました。生産現場ではこれまでにもブロックチェーンを製品の品質管理に活用する例はありましたが、3社の試みはこうした技術を労働者の人権保護というエシカル(倫理的)な目的に役立てようとするものです。

従業員の労働・健康状況をブロックチェーンで監視

リーバイスのジーンズで知られる衣料品メーカーのリーバイ・ストラウス社は、ハーバード大学やシンクタンクのニュー・アメリカ(New America)と提携し、ブロックチェーンを使って工場労働者の労働状況や生活状況を追跡するシステムを開発するパイロットプロジェクトを2019年春から開始します。2019年1月24日のニュー・アメリカの発表によると、米国務省はこのプロジェクトに80万ドルを供与するとのことです。

プロジェクトの第一段階は2019年第2四半期(4~6月)に開始される予定で、リーバイ・ストラウス社の製品を作っているメキシコ国内3カ所の工場の従業員約5000人の労働状況や健康状況を、各個人のプライバシーを保護しつつ追跡するものとなります。

このブロックチェーン・システムは、ハーバード大学のT・H・チャン公衆衛生大学院の開発した生活状態指数「SHINE」を活用し、イーサリアム開発企業コンセンシス社(ConsenSys)によって開発されます。

SHINEの統括者であるアイリーン・マクニーリー(Eileen McNeely)博士は、これまでにもブロックチェーン活用事例の多くがサプライチェーンでの資材のトレーサビリティーに関する問題を解決している点を指摘。この技術を労働者の健康管理に活用する今回のリーバイ・ストラウス社の取り組みについても、「世界規模で労働者の福祉にポジティブな影響を及ぼす広範な可能性を秘めた革新的技術になる」と述べています。

IBMは児童労働対策にブロックチェーン活用

一方、IBMは2019年1月、工業製品の原材料採掘現場での児童労働などの人権侵害を排除するため、ブロックチェーン・システムを活用するプロジェクトを発表しました。

このシステムは「ハイパーレッジャー・ファブリック(Hyperledger Fabric)」というブロックチェーン・プラットフォームを使ったものです。試験運用として、まずアフリカのコンゴ民主共和国(旧ザイール)にある鉱山から米国のフォード・モーター社の工場までのコバルトの運搬を追跡します。

2019年2月にコンゴ民主共和国から出荷されるコバルト鉱石1.5トンが、ブロックチェーンを使ったシステムで追跡されます。このコバルトは中国へ送られて精錬された上、韓国にあるバッテリー工場に向かい、最終的には米国にあるフォードの工場に運ばれて、電気自動車用のバッテリーに使われます。この約5カ月間かかる運搬過程をすべてブロックチェーンで記録し、児童労働などによって採掘されたものでないことが確認できるようにします。

このプロジェクトには、IBMとフォード社のほか、中国のコバルト採掘企業フアユー・コバルト社(Huayou Cobalt)や、韓国LGグループの電力部品製造企業LGチェム社、そしてRCSグローバル社も参加。これらの企業が、IBMのブロックチェーン・システム上に、コバルトの運搬過程を記録していきます。

プロジェクトの目的は、工業製品の原材料が児童労働などによって生産されたものでないことを義務づける経済協力開発機構(OECD)の基準に適合しているかを、サプライチェーンの各段階でチェックできるようにすることです。

コバルトは電子機器や電気自動車の製造に必須の原材料となっていますが、産出国であるコンゴ民主共和国のコバルト鉱山では、採掘に児童が酷使されていることが国際的に問題となっており、世界の人権団体が監視の目を強めています。

IBMの国際産業製品担当ゼネラルマネジャーのマニッシュ・チャウィア(Manish Chawia)氏は「ブロックチェーンは、すべてのデューディリジェンス過程にリアルタイムでアクセスし、鉱山から史上までのサプライチェーンを目に見える形にすることのできる、最も効果的な技術だ」と述べています。

プロジェクトに参加するRCSグローバル社は、調査員を現地の鉱山に派遣し、現場での児童の酷使などの人権侵害が行われていないかどうかを監視します。調査員は、コバルト鉱石の入った袋に、それが児童労働などによって採掘されたものでないことを証明するバーコードタグを貼付します。

仮に調査員が児童労働などの人権侵害行為を発見した場合には、IBMのシステムに記録され、RCS本社が鉱山から出荷しようとしている輸出業者に対し、そのコバルト鉱石が国際的なガイドラインに適合していないことを警告します。

RCSはこれまで何年にもわたってアフリカの金属鉱山の状況を監視してきました。2018年には、同社が監視している金鉱で採掘された金が人権侵害の労働によるものであることを探知し、輸出業者に警告しましたが、輸出業者はこれを無視して出荷する事態が起きています。

しかし、IBMが開発したブロックチェーンシステムを使えば、鉱山を監視する調査員が付けたタグが分散型台帳に記録されるため、ガイドラインに適合しているかどうかを運搬の各段階でチェックできるようになります。

このブロックチェーン上の情報は、将来的には参加企業だけでなく、非政府組織(NGO)や政府機関なども閲覧可能となる予定です。IBMはこの実証実験が成功すれば、チタンやタングステン、金、希少金属などのさまざまな鉱山で採掘される原材料にもシステムの追跡対象を広げ、サプライチェーン監視企業や、自動車メーカー、電子機器メーカーなどにプロジェクト参加を呼びかけていく方針です。

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