伊藤忠商事が、ブロックチェーン技術を使ってインドネシア産天然ゴムの原料調達過程を追跡・記録する業者間取引記録システムの実証実験を3月から始めます。タイヤの原料となる天然ゴムの生産をめぐっては、乱開発による環境破壊や栽培農家の権利侵害の問題が指摘されており、今回のプロジェクトはこうした課題の解決を狙いとしています。

栽培農家から工場までの流通を透明化

伊藤忠商事株式会社(本社・東京都港区、鈴木善久社長兼COO)は2019年2月1日、事業投資先や取り扱い商品のサプライチェーン上の資源の安定的な調達・供給および、その流通の透明性確保のため、ブロックチェーン技術を用いたトレーサビリティー・システムの構築に向けた実証実験を開始すると発表しました。

同社はインドネシアのスマトラ島で、現地法人の天然ゴム加工会社Aneka Bumi Pratama(ABP、矢島久嗣President Director)を通じて天然ゴムの加工工場を運営しており、その出荷量は同国で第3位の年間36万トンに上っています。天然ゴムの原料は現地の小規模な農家によって生産され、複数の業者の取引を経由して仕入れられています。

今回の実証実験には、この原料流通過程に関わる約30人の業者が参加。それぞれの業者が天然ゴム原料の受け渡し時に、スマートフォン用アプリを使って取引量や取引場所など取引内容の相互認証を行った上、日時・位置情報等と合わせてブロックチェーン上に記録します。加工工場で、この記録を届いた天然ゴム原料の量と照合し、集荷ルートや取引量を確認することにより、天然ゴムが原料生産地から加工工場に至るまでの流通の透明化を図ります。

また、各事業者の協力を促すためのインセンティブとして、正しく記録された取引に応じて対価を支払う仕組みも設ける予定です。

このシステムは、ABPの天然ゴム原料調達サプライチェーンを活用して、伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(CTC、本社・東京都千代田区、菊地哲社長)が構築。実証実験終了後にさらに機能を強化した上、2020年からの正式導入を目指しています。

背景に環境破壊や人権侵害の問題

伊藤忠がこのようなブロックチェーンを使ったシステムの構築に乗り出した背景には、インドネシアの生産現場での環境破壊や地域住民の人権侵害といった環境・社会面の問題がありました。

天然ゴムは、日々の生活に欠かせない天然資源のひとつであり、主にタイやインドネシアなどの東南アジアで生産され、その約7割がタイヤの原材料として使われています。世界的なモータリゼーションが進む中、世界の天然ゴムの生産量、消費量はともに増加しており、今後もその需要は伸びていくと言われています。

その一方、天然ゴムの生産をめぐっては、地域住民の人権侵害や環境破壊の問題が、国際的な人権団体や環境保護団体から指摘されています。

東南アジアの生産地には、まだ貧しい地域が多く、天然ゴム栽培は農家にとって重要な生活手段となっています。しかし、栽培農家は零細な家族経営のところが大半で、また取引業者が何重にもわたっているため取引価格の動きが把握しにくく、栽培農家に対する不当な搾取が懸念されています。

また、これらの地域の森林にはゾウやトラなど絶滅危機種の大型野生動物が生息していますが、天然ゴム栽培のために生息地の森林が減少しており、種の存続が危ぶまれています。

このように天然ゴム産業では環境や人権に配慮した事業活動の推進が求められていることから、2018年10月には「持続可能な天然ゴムのための新たなグローバルプラットフォーム(Global Platform for Sustainable Natural Rubber、GPSNR)」が、天然ゴム産業に関わる自動車メーカーやタイヤメーカー、天然ゴム加工企業など11社によってシンガポールで設立されました。

このプラットフォームは、天然ゴムの生産や利用が、より自然環境や社会的環境に配慮した持続可能な方法で行われていくことを目標に掲げ、関連産業がサプライチェーンを通じて共同作業していくものです。

伊藤忠商事はGPSNRに日本の商社で唯一の設立メンバーとして参加。今回のブロックチェーンを使った天然ゴム原料の取引追跡システム構築は、これに続く取り組みとなります。同社では、国連で採択された2030年の「持続可能な開発目標(SDGs)」達成にも貢献していく方針を表明しています。

ブロックチェーンのエシカル活用が拡大

ブロックチェーン技術をエシカル(倫理的)な生産活動に役立てようとする企業の取り組みは、2019年に入って広がりつつあります。

米IBMは2月から、バッテリーや電子機器の原材料となるコバルトの採掘現場での児童労働を防止するための追跡システムの実証実験をスタート。米リーバイ・ストラウス社も4月から、メキシコの衣料品工場での労働者の健康状況を追跡するシステムのパイロットプロジェクトを開始する予定です。

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