カナダ最大の仮想通貨取引所「クアドリガCX(QuadrigaCX)」で、仮想通貨を保管するウォレットを管理していた創業者が急死したため、11万人を超す顧客が資産を引き出せなくなるという事態が2カ月にわたり続いています。同取引所ではハッキング被害を防ぐため、顧客からの預かり資産のほとんどをネットから分断されたコールドウォレットに保管し、その秘密鍵は創業者が1人で管理していました。

創業者は昨年12月インドで急死

「クアドリガCX」の創業者で最高経営責任者(CEO)のジェラルド・コットン(Gエrald Cotten)氏は2018年12月9日、旅行先のインドでクローン病の合併症により急死しました。

同取引所は11万5000人以上に及ぶ顧客からの預かり資産の大部分を、コールドウォレットに保管していました。このウォレットの秘密鍵をコットン氏が一人で管理していたため、ウォレットはアクセス不能となり、この結果、同取引所は顧客に資産を償還できなくなりました。

取引所のウェブサイトは「メンテナンス」を理由に閉鎖され、顧客は資産を引き出せない状況が2カ月にわたり続いています。クアドリガCX側は2019年1月中旬になって、ようやくコットン氏が死去したことを発表しました。顧客は長期間にわたり資産が引き出せず、取引所側からの十分な説明もないことに不満を募らせています。

預かり資産は1億9000万ドル相当

1月31日になって、クアドリガCXはカナダのノバスコシア州最高裁判所に対し、債権者である顧客からの財産差し押さえ訴訟が起こされた場合に、その手続きを進めないよう求める申請を行いました。

コットン氏の妻であるジェニファー・ロバートソン(Jennifer Robertson)氏が同日提出した宣誓供述書で、これまでの事態の詳細が述べられています。

それによると、同取引所の顧客からの預かり資産は、仮想通貨と法定通貨合わせて2億5000万カナダドル(1億9000万米ドル)相当に上っています。

また、同取引所が保管する仮想通貨は、ビットコイン2万6500BTC(9230万米ドル)、ビットコインキャッシュ1万1000BCH(130万米ドル)、ビットコインSV1万1000BSV(70万7000米ドル)、ビットコインゴールド3万5000BTG(35万2000米ドル)、ライトコイン20万LTC(650万米ドル)、イーサリアム45万ETH(460万米ドル)で、計1億4700万米ドル相当とされています。

同取引所の保管するこれらの仮想通貨のうち、どれぐらいの割合がコールドウォレットに保管されていたかは明らかにされていませんが、宣誓供述書でロバートソン氏は「ホットウォレットには最小限のコインしか保管していなかった」と述べ、大部分がコールドウォレットに保管されていたことを説明しています。

他の取引所スタッフはアクセスできず

ロバートソン氏によると、クアドリガCXでは、顧客から預かった仮想通貨をハッキングなどのバーチャルな盗難から守るため、創業者兼CEOのコットン氏がこれらの資産の大部分をコールドウォレットへと移動させていました。そしてコットン氏は資産の取り扱いは1人で行っていました。このため、同氏が急死して以来、同取引所のコールドウォレットには、他の取引所スタッフは誰もアクセスができないとのことです。

コットン氏が同取引所のコールドウォレットの秘密鍵を知っている唯一の人物だったため、同氏の死後は「クアドリガCXの仮想通貨の詳しい保有明細は利用できなくなっており、その一部は失われた可能性がある」とロバートソン氏は述べています。

ロバートソン氏は、自分がクアドリガCXや関連企業の事業にはこれまで一度も関わったことがないと述べています。彼女の手元にはコットン氏の遺したラップトップPCがあるものの、この端末は暗号化されており、自分はパスワードやリカバリーキーを知らないと説明。あるコンサルタントがこの端末のパスワードを解除しようと試みたものの、今のところ成果は得られていないとのことです。

顧客資産補償のため取引所売却を検討

宣誓供述書は州最高裁に対し、クアドリガCXの資産を差し押さえようとして今後起こされるであろういかなる訴訟についても、手続きを進めないよう要請。「さもなければ、取引所の顧客の全員ではないにせよ、多くの人がさらなるダメージを被ることになる」と強調しています。

宣誓供述書によると、クアドリガCXでは新しい取締役会が1月26日に、プラットフォームの「一時的な休止」を決議しました。現在、顧客の資産を補償に充てるため、取引所プラットフォームの売却を検討中であるとされています。既にプラットフォームの買収に関する複数の問い合わせが来ているとのことですが、宣誓供述書には具体的な社名は記載されていません。

ロバートソン氏は「取引所プラットフォームは大きな価値を持っている可能性がある」とした上、もしクアドリガCXが債権者から訴訟を起こされれば、売却価値が下がってしまうことになると警告しています。

コールドウォレットの管理が課題に

世界各国の仮想通貨取引所では、これまでハッキングの被害によるトラブルが多数発生してきましたが、その多くは、顧客からの預かり資産をネットに接続されたホットウォレットに保管していたことが原因でした。

これに対し、今回のクアドリガCXで起きたトラブルは、顧客からの預かり資産のほとんどを安全なコールドウォレットに保管していたにもかかわらず、その秘密鍵が分からなくなったため資産が引き出し不能になったという前代未聞のケースです。

日本でも2018年1月のコインチェック事件などを受け、金融庁が仮想通貨交換業者に対し、預かり資産をコールドウォレットに保管するよう強く指導しています。しかし、コールドウォレットでは、秘密鍵を知る人物が不慮の事故などで死んでしまえば、資産の引き出しが永久に不可能となります。今後はこうしたコールドウォレットの管理に関する対策も課題となりそうです。

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